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第8話 企み①

last update Tanggal publikasi: 2025-06-13 16:31:00

 ろうそくの灯りしかない薄暗く長い廊下に、窓は一つもない。

 全体が石畳で造られたその通路は、無機質で圧迫感さえ感じる。

 廊下をしばらく歩いていくと、重厚で大きな扉が眼前にそびえ立つ。

 その扉を開くと、さらに暗く不気味な雰囲気が漂う大きな広間が存在した。

 広間へと足を踏み入れた京夜は眉を寄せる。

 たくさんの魔族たちが目の前を通り過ぎて行くのを、不快そうな顔で京夜は睨みつけていた。

「京夜殿、珍しい。このような席には滅多におられないのに」

 一人の魔族がニヤついた顔で京夜に話しかけてくる。

 その話し方から、嫌味だとすぐにわかった。

 京夜は気まぐれで、魔族の集まりに顔を出すことは滅多になかった。

 それをよく思っていない連中がいることも知っている。こいつもその一人だろう。

「まあ、たまには出席しないと、魔王様にお叱りを受けますので」

 面倒くさいので適当にあしらおうとする京夜だったが、懲りない魔族は余計な発言をしてしまう。

「そうですね、魔王様も心が広いとはいえ、限度がありますから」

 京夜は鋭い眼差しでその魔族を睨んだ。

 すると命の危険を感じたのか、魔族は青い顔になり、そそくさとその場から立ち去っていく。

 どうやら京夜のことは恐れているらしい。

 確かに先ほどの魔族はカスだ、レベルが違う。京夜は数秒とかからぬうちに灰にできる自信があった。

 去り行く魔族を見つめながら、京夜は肩を竦める。

 その時、その場にいた魔族たちが一斉に跪いた。

 京夜も皆にならって跪く。

 暗闇の中から魔王が姿を現した。

 その場の空気が一変した。ものすごい威圧感だ。

 ゆっくりとした動作で歩いていくと、魔王は王座に座り皆を見渡した。

 魔王から発せられる、邪悪な気が辺りを包み込んでいくのを感じた。

 圧倒されるようなその雰囲気に、皆が呑まれていく。

 ある一人を除いては。

 場の空気は張りつめ、緊張が高まる。

 皆は静まり返り、魔王の言葉を待っていた。

「……京夜、ここへ」

 魔王がそう発言すると、その場にいる魔族たちが一斉に京夜の方へ視線と意識を向ける。

 そんな針のむしろのような状況の中、京夜は平然と魔王の側へと歩みを進めた。

 京夜は魔王の目の前で跪き、頭を垂れる。

「最近、私の可愛い配下たちが次々と消えていく。

 おまえの付近に放った配下だ。何か知らぬか?」

 魔王が京夜を見下ろす。

 深い闇のような瞳からは不気味な光が放たれている。

 この目に見つめられると、皆恐怖で動けなくなる。が、京夜にはまったく何の影響もなかった。

「魔王様、最近、私の周りで白い剣を手にした少女が現れ、魔族を倒すという噂を耳にしています。そのことではないでしょうか?」

「ほう……で、おまえはその少女のことを何も知らないのか?」

「はい、調べてはいるのですが。私の方では何も……」

 京夜は嘘をついた。

 少女の正体はあゆだと知っている。

 しかし、あゆを観察するのが面白くて、京夜はずっとそのことを誰にも言わず隠していた。

 京夜にとって魔界の暮らしも人間界の暮らしも、とてもつまらないものだった。

 彼ほどの実力を持つ魔族となれば、魔界中を探せど、彼を楽しませてくれる者はそうそう見つからなくなる。

 京夜にはそもそも出世欲もなく、魔族同士の争いにも加わっていない。

 人間界での仕事も適当にこなしているだけで、どこか物足りなさを感じていた。

 そんな中で唯一の楽しみがあゆだった。

 初めはあゆのことを普通の大人しい女子高生だと思っていた。

 しかし、京夜が狙ったターゲットの前に現れたあゆを見たとき、すごく興味をそそられた。

 普段のあの姿からは想像できない態度と強さ。

 そして、戦いの中で見せる美しさ。

 見ているだけで、京夜の目を釘付けにした。

 さらに、京夜はあゆをからかう楽しさを覚えてしまった。

 他の人間よりも素直で、何事においても反応の良いあゆ。京夜のいたずら心を満たしてくれるかっこうの存在だった。

 人間界の暇つぶしには、もってこいの相手だ。

 とにかくあゆほど、京夜の心を捉えて離さない人物はいなかった。

「そういえば――次に狙う人間。私にお任せいただけますか?」

 京夜がそう進言すると、魔王は驚いたように目を大きく開き、そして感心した様子で頷いた。

 彼がこんなに積極的に自ら発言するのは、初めてだったからだ。

「京夜にしては珍しいな、いいだろう。任せよう」

「ありがたき幸せ」

 下を向く京夜は、そっと口の端を上げた。

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